やまびこ
中城 洋子
明日から放射線照射治療が始まるらしい
パジャマを脱いで
そっと病室から抜け出した
久しぶりに聞く愛車のエンジン音
国道を対岸に見ながら
仁淀川沿いを遡って
だんだん細くなる道の
もうこれ以上行けない地点
誰もいない山間に立って
腹の底から精一杯
でも
恐る恐る言ってみる
おかあちゃん!
子供の頃の呼び方
いつからだったろうか
母をそう呼ばなくなったのは
幾重にもなって
確かに聞こえてくる山彦
ちゃんと言えるではないか
あれは
緑色に染まったぼくの声
喉頭癌
もうすぐ
声を失うかも知れない