足摺岬(終章)
田村 賢人
白い闇の中で何を待つのか
切り取られた時間
洗う足もない 不条理の庭
祈る老人のトルソー砕かれ
小さな嘘と 大きな真実
初めから何一つなかったのに
故郷喪失者などと
道化哀れ
ものみな幻影であり幻聴であった
集落は
糸吐いて獲物いたぶる女郎蜘蛛
群れのいくつか嗤う木霊は
昔むかしの未来型
つまずいて なお
血まみれの白い杖抱きしめて
風の岬の獣径
巡礼だけが永遠であった
はらはらと はらはらと
風の岬の花いちもんめ
夕凪のあとの風の乳房は
天の夕顔
葉脈の流れる息見えて
任意の点結ぶ指かさねて
青い珊瑚は
海の襞深く眠る
ひとつ またひとつ
弥増す罪の重さに
修羅の海這う鴉が1羽
その磯の石塊に
俺の名を刻むな
墓碑銘は風にこそあれ
風は海の序説
盲目になることを恐れてはならない
約束は漆黒の宇宙